医学生は少数であるため制作単価は高く、このため高価になってしまうが、「医師という職種につくために必要な本」として認知されれば、高価でも買ってもらえる。
一般書の場合、すぐに新しい書籍にとって代わられ忘れ去られることが多いが、学生向けの医学書は定番化すれば毎年ずっと売れ続ける。がんばりがいがある。
文系・理系の通常の学部は、同じ学部でも専門課程で学ぶ内容はかなり変わってくるため、必ずしも売りやすくはない。一方、医学生の場合は「医師国家試験合格」というゴールまで全国の医学部でほぼ共通のことを学ぶため、本が作りやすく売りやすい。
臨床医向けの本は、読者層が循環器内科とか産婦人科というように専門分野によって細分化してしまうため部数を設定しにくい。多く刷れない。一方、医学生向けの本は、読者層が細分化しておらず、臨床医向けの書籍よりも販売部数を多くしやすい。
臨床医向けの本は、情報の更新が早いためネットの影響は無視できない。
一方、学生向けの本の場合、基本的な内容が多く、臨床医向けに比べて情報の更新の頻度は低い。
加えて学習に使う書籍は、紙の本のほうが書き込むなどのカスタマイズができたり、やり遂げた達成感が実感しやすいなどのメリットがある。
このためネットの影響を受けにくい。
医学生は同期や先輩後輩の連携が強く、口コミ効果が高いため、効率的に商品を認知させることができ、広告費をあまり使わない。
また学生数を把握しているから、無駄に印刷し在庫を抱えたり返本に悩まされることが少ない。効率よく無駄のない出版が可能。
読者数が少なすぎず、多すぎない。
市場が大きすぎるとライバルの参入が激しくなり、少なすぎると採算がとれない。医学部は努力すれば1位になりやすい市場で、1位になれば効果が高い。
医学生は、医師に比べアルバイトとして社に来やすいだけでなく、基本的に優秀な方が多いため、「自分も勉強になる!」「後輩のためにもっと本をよくしよう!」とかなり熱心にがんばってくれる、よって「読者参加型」の方法が有効に機能し、内容が向上する。
「編集が主役」の作り方は、臨床向けの本では専門性が高すぎるため実行は困難だが、学生向けに「医学を分かりやすくする」レベルであれば、医師・医学生らのサポート次第で十分可能。
これが、『イヤーノート』成功の背景にある「医学生」という読者層の特徴なんです。
何より、「医学生向け」というジャンルだから、先に説明した「読者参加型の本づくり」、「編集が主役」の本づくりができた。
狙ってこうしたというより、自然にこうなってしまったといったほうが正しいと思います。