次は、「読者参加型の本づくり」について話します。
読者の意見を聞く、ニーズをとらえるといえば、よくある表現ですが、社長・岡庭の行った方法は、座談会やインタビューといった生半可なマーケティング手法にとどまりません。
読者代表である医学生を、人件費をかけてアルバイトとして雇用してしまう。
例えば、執筆者から届いた原稿がどうしたらもっと良くなるか、それこそ1ページ1ページ、1行1行を具体的に吟味してもらいます。
そして、よりわかりやすくするためのアイデアを練り、ドクターに提案するのです。この方法が社内に浸透し、システムとして確立していったのです。
現在は医学生の方だけでなく、医師、看護師、看護学生の方もいらっしゃいますので、アルバイトの総数は相当な数にのぼります。
その分コストもかかりますが、そこまで徹底して具体的に読者のニーズをとらえようとするから、小社の本は、読者に拡がっていき、トップシェアを確立でき、かけたコスト以上の効果をあげることができているのです。
つまり、楽に結果を出せる方法はなく、かけるべきポイントにコストと労力をかけることでシェアを伸ばす。それが「読者の視点を徹底していられる」という方法論なのです。
ちなみに、この「学生バイト」の方々は、医学や看護などを教えてくれる家庭教師であると同時に、共に苦労した仲間でもあるので、バイトを卒業した後も、彼らと友人として長く付き合っていく編集者も多いです。
おしゃれな街(のはず)、青山で地味~に、しかし熱く、原稿を吟味してくれる医学生たち
でも素のときは、いたって普通の明るい好青年たちです。
3つ目のポイントは、「常識に縛られない」こと。
例えば、『病気がみえる』。多方面から「ターゲットを絞らなくては本は売れない」と言われる中、社長・岡庭は、あえて読者層を限定せず“チーム医療を担う医療人共通のテキスト”として本書を企画しました。
その制作方法は、イラストレーターを外注でなく社員採用し、相当な経費をかけてつくるというもの。
しかも苦労してコストをかけて完成させた本は、医学教科書としては超低価格の設定で発売しました。
こうした要素は全て、それまでの常識では考えられないものでした。
他社や書店からみればかなり無謀に思えたこの企画は、立ち上げ当初は苦しんだものの、結果的には、実際に職種の壁を越えて、医学書総合ランキング上位を独占する勢いでヒット。
毎年部数が落ちずに売れ続け、良い利益を出せるシリーズに成長しました。
なぜできたか?それは、「医学は難しい…徹底的にビジュアルで理解できる本が欲しい」という読者のニーズをとらえ、それに応えることができれば必ずヒットし、コストがかかっていても必ず利益を出すことができるという確信が小社にあったからなのです。
つまり、「常識に縛られない」の発想の上流には「読者ニーズをとらえた確信」がある。単なる「非常識」ではないということです。
そして、このような発想で企画された本が、すべて小社の主力商品になっています。
この発想が、そのままメディックメディアの編集スタイルになっています。
編集者が編集の根幹を担い、読者の反応をみながら試行錯誤できる――。
この仕組みが、「常識に縛られず」チャレンジできる環境をつくってくれているのです。
(出典:医学書出版情報2023年12月 No.465/受注ベース)
『病気がみえる』は医学書総合ランキングでも上位を占める大ヒットに。